恋愛セミナー86【雲隠2】恋する光る海老蔵~源氏物語版・地獄変への布石~「幻」の次にはさまれた「雲隠」。本文がないとされるこの帖を、 「源氏物語」私考でお楽しみいただければ幸いです。 光と影の対決。 真に輝くのはどちらか。 第五十五帖 <雲隠-2 くもがくれ> 夢か現か幻か 婦人画報2005年1月号は、100号記念に相応しい対談・特集が目白押し。 中でも平成の紫式部こと瀬戸内寂聴氏×平成の光源氏こと市川海老蔵氏の対談は 歌舞伎界への大きな布石のひとつとして長く記憶されるものになるに違いないと思います。 御園座版「源氏物語」を書いた寂聴氏。 台本のト書きには「ここで観客がため息をつく。」「うっとりさせる。」「出てきただけでハッと。」 などと書かれていたらしく、戸惑っていたと海老蔵氏。 もちろん、寂聴氏の指摘どおり、私を含めた観客は、生きて歩く光源氏に 「ため息」「うっとり。」「ハッと。」、まるで台本どおりに反応していたのでした。 恋でキレイに48~源氏物語で恋愛セミナー【雲隠1】~光る海老蔵の歌舞伎 海老蔵氏は「源氏なんて何をしても許されると思っている男、大嫌いだ。」と 三年前の初演で、初めて寂聴氏に会ったときに言ったそうです。 その感覚は、今回もある程度持ち続けているそうで、藤壺や朧月夜を奪う源氏が 恨まれるのは当然だと。 そして、いまだ色男の部分しか出ていない源氏を演じているため、 (何故こうも人々が惹きつけられるかが)どうも腑に落ちないと。 パーフェクトな人間なら納得できるのだが、という言葉に、 そんな男とは恐くて暮らせない、との切り返しが。 源氏の持つ矛盾、千年も読み継がれてきた理由に、寂聴氏もまだ答えを出せていないのだとか。 それでも、演じて三年たってみると、源氏のことをある程度理解できるようになったそう。 いろいろな経験や恋をし、源氏と重なる部分が増えたということでしょうか。 寂聴氏曰く「あなたこそ梨園の御曹司で何をしても許される」存在だと。 そして襲名によってその奢りが非常に謙虚になったことや、 武蔵から源氏までできる才能と美貌を手放しで褒めています。 源氏の年齢と、ほぼ同じような歩みで演じている新之助~海老蔵源氏。 今後やってみたいと再三、頼んでいるのは、なんと「地獄」。 女三宮の不倫こそが地獄と寂聴氏が言うのを、それは現実のこと、 そうではなくて真の地獄を演じたいと。 地獄を演じられるのなら、源氏の物語でなくてもよいと。 そうでなければ、ライバルのいない源氏が真に輝かない。 地獄に落ちた源氏自身が、ライバルなのではと。 「地獄などない。念仏を唱えればみな極楽に。」と言う寂聴氏に 「そう言い切れるのは地獄を知っているからでしょう。 地獄に触れているのもいいことなのでは。」と説得する海老蔵氏。 あたかも源氏が紫式部を口説く格好。 「もっといい男に書いてくれ。」ならぬ「地獄に落としてくれ。」とはこれいかに。 梨園では不義の子の誕生などよくあること、自身の行状を鑑みても その程度では物足りないということでしょうか。 寂聴氏にしてみれば、この世こそ地獄。 先日も『情熱大陸』に出演されていましたが、 「生きていたって何もいいことないんだもの。」 「出家しなければ自殺していたでしょうね。」とつぶやいていたのが印象的でした。 とにかく最後まで演じきりたいとの言葉に、 遺言にしてでも脚本を書き尽くすとの約束が交わされた模様。 須磨・明石、六条院での栄華、女三宮や紫の上との葛藤と別れ、 この世を去ったあとまで、源氏をあますところなく観せてくれることを期待しています。 |